沢木耕太郎 「深夜特急」 新潮文庫より抜粋
深夜特急 6 P.121
わかっていることは、わからないということだけ。
深夜特急 2 P.212
物でも人でもこだわるな。おまえの悩みが何なのかわからないが、
そういうこだわりを捨てると、人間というのは急に心が楽になる。
自分は四十の年に頭を丸めて、ずいぶん遅い出家だったが、
いまでもまだここから大津の灯を見ると気持ちが誘われる。
あそこには信徒がたくさんいて自分は酒が好きだから
下へ降りるとお酒を飲ませてくれる。
ここは刑務所と違って檻があるわけではないから、
自分で自分の心の中に作るだけで、刑務所よりずっと辛いんだ。
見ろ、ちらちら灯が誘っている。
それを行かないで、ここにいるというのはすごく辛いんだ。
生きている限り、煩悩の灯というのは絶えない。
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